フラワーアーティスト 田中孝幸
―住まいと花の関係―「花を生ける」ことで日常のなかに
潤(rùn)いと余裕を生み出す

Profile

フラワーアーティスト?花人

田中孝幸（たなかたかゆき）

花と植物をツールとした表現(xiàn)のジャンルは、空間演出や設(shè)計(jì)、ランドスケープ、広告、コミュニケーションデザイン、アートプロジェクトなど幅広い。2014年「UNITED FLOWERS」を設(shè)立。京都?大本山?建仁寺塔頭両足院にて開催された「MODERN KYOTO CERAMIC2015」や、蔦屋家電とのコラボレーション、雑誌「婦人畫報(bào)」での連載など表現(xiàn)の場(chǎng)は多岐に渡る。

“光と影”を操るフラワーアーティスト、田中孝幸

花や植物をツールとして、空間演出やランドスケープ、広告、コミュニケーションデザイン、アートプロジェクトと多岐にわたって活動(dòng)している田中孝幸さん。花?植物と対峙し、革新的手法で“極限美”へと昇華させることで、世界に新たな“story”と“生命力”を生み出すことをテーマとしています。

複合施設(shè)「TENOHA DAIKANYAMA（テノハ 代官山）」での空間展示は「光と陰」と「呼吸」がテーマ。光と陰を花に憑依させて、水中で新たな花の姿を出現(xiàn)させた。『陰陽(yáng)花 : One breath of flowers in the yin and yang』 @ TENOHA Daikanyama

ダイワハウスが提案する、都市にいながらも、自然を感じる「森が家」

「森が家」では、コンセプトである森の構(gòu)成要素を擔(dān)當(dāng)され、そのときのことを田中さんはこう振り返りました。
「人間のバイオリズムに則った暮らし方ができる家をイメージしました。そのために考えたのは、『いかに明暗を感じることができるか』ということです。自然界には必ず、“光”と“影”があります。明るくて日差したっぷりの家も素?cái)长扦工⒉蛔匀护扦悉ⅳ辘蓼工汀￥悉盲辘趣筏俊鞍丹怠堡蜓莩訾工毪长趣甯肖酥覍gで豊かな生活につながると考えました」

田中さんの生み出す作品は、光と影の対比がとても印象的です。
「昔から蕓術(shù)では“光”が重要な役割を擔(dān)っています。西洋とは異なり、日本ではもともと陰影のなかで映える蕓術(shù)作品を作り上げてきました。一義的、直接的な表現(xiàn)にしないというのが、日本という島國(guó)で醸造された美意識(shí)だと僕は思います。一輪の花でも、花瓶に挿すと必ず影ができるものです。作品作りにおいて、光と影のバランスというのは常に意識(shí)している部分ですね」

編集者から花の表現(xiàn)者へ。田中さんの心を動(dòng)かしたもの

田中さんが「花の表現(xiàn)者」となったのは偶然の連続でした。小さい頃から手を動(dòng)かしてモノを作ることが好きで、大學(xué)卒業(yè)後は情報(bào)を扱い、モノ作りをする出版社に入社。雑誌編集のキャリアをスタートさせるも、編集者としての自分の在り方に違和感を感じ、わずか半年で退社します。
「若気の至りもあったのですが（笑）。自分が納得するかしないかに関係なく、“臺(tái)割という全體の設(shè)計(jì)図ありき”で進(jìn)んでいく制作方法に疑問(wèn)を感じたのと、小さくても自分の軸を持たないと、魅力ある他者の物語(yǔ)は借りてこられないと思いました。『まずは自分なりの軸を持つ。そのための経験と時(shí)間を積まないといけない』と感じたんです」

「何をしたいのか考えてみると、“表現(xiàn)欲求”だけが殘りました。ただ、自分はわかったつもりになりやすい性格なので、なまじ知っている世界よりも、まったく知らない世界に飛び込んだ方がいいだろうと思い。そんなとき本屋で偶然、花の雑誌が目に留まりました。花というのは色も形も無(wú)數(shù)にあり、四季折々にいろんな表情を見せてくれます。しかも自然の産物である。表現(xiàn)のツールとしての可能性を感じました」

飛び込んだ生花店の紹介で、大田市場(chǎng)の生花の仲卸で働くことに。市場(chǎng)の仕事は深夜0時(shí)から夕方までと過(guò)酷を極め、3カ月で12kgも痩せてしまうほどでしたが、不思議と辭めようとは思わなかったそうです。市場(chǎng)で扱う花はつぼみの狀態(tài)のため、その狀態(tài)で花の品種を見分けて手書きで伝票に起こすのも大変な作業(yè)。田中さんにとって未知で刺激的な毎日でした。

その頃から、市場(chǎng)で余った花を用いて知人の飲食店に花を生ける表現(xiàn)活動(dòng)もスタートさせました。フラワーアートの技術(shù)は、書籍や市場(chǎng)に出入りする業(yè)者の店を訪ねるなどして獨(dú)學(xué)で學(xué)んだそうです。田中さんが師と仰ぐベルギー出身の世界的フラワーアーティスト、ダニエル?オスト氏との出會(huì)いもその市場(chǎng)でした。

「カタコトですが英語(yǔ)が話せたので、彼の市場(chǎng)での御用聞きを僕が任され、やがて仕入れや制作のサポートをするようになりました。『ずっと市場(chǎng)にいるつもりか？君は制作の現(xiàn)場(chǎng)に來(lái)るべきだ』と聲をかけてもらい、表現(xiàn)の道へ進(jìn)むことになったんです」

ダニエル?オスト氏から大きく影響を受けたのは、花に向き合う姿勢(shì)だったと言います。

「ダニエルからは『花を切って作品を作るなら、咲いている狀態(tài)よりも美しくしなければ意味がない。それができなければ花を切るな』と言われました。彼の花に向かう姿勢(shì)や気迫は、僕が最も刺激を受けた部分です」

「余裕」は花を飾る行為で生み出せると思う

花の魅力は「一つとして同じ瞬間がないこと」と田中さんは語(yǔ)ります。「切って飾った花は刻々と命が進(jìn)み、同じ瞬間がありません。一瞬の連続です。絵畫などの蕓術(shù)作品と違い、形には殘らず所有することもできませんが、消えてしまうからこそ剎那的な美しさがあるような気がします」

田中さんは花を飾ることで自分を內(nèi)観することもできると言います。

「例えば、雲(yún)一つない晴れの日に『気分がいいから花でも飾ろう』と生花店に出かけてみる。『今日の気分はモノトーンよりもオレンジ色の花だな』と花を選ぶ。花を飾るという行為は自分の內(nèi)面に向き合うことです。時(shí)間に追われる忙しい日々では、意外とそういう機(jī)會(huì)は少ないものです」

よく「花を飾る余裕なんてない」と言いますが、実際は逆で、花を飾ることで余裕を生み出すことができると田中さんは考えます。

「花を飾ることがきっかけで、空気が冬に向かっていることを感じたり、普段は見過(guò)ごしていた月の美しさに気づいたり…。小さなコップに一輪の花をすっと飾るたった3秒が、心の余裕を生み出すスイッチになるんです」

花で空間の「空気感」は変えられる

花のある暮らしに憧れていても「すぐに枯れてしまいそう…」「花を絶やしてしまいそう…」と、ハードルの高さを感じる人は多いかもしれません。

「花は枯れてしまうものですし、枯れた後にしばらく飾らない期間があったっていい。花もわざわざ買いに行かなくていいんです。僕はジョギング中に見つけた河原の草花を飾ることもあります。気負(fù)わずに、まずは暮らしのなかに花を取り入れて欲しいですね」

住まいに上手に花を取り入れるポイントを田中さんにお聞きしました。

「明暗」と「高低」で花を魅せる

光がさんさんと降り注ぐ場(chǎng)所には、靜かに主張するモノトーン系の花を。葉だけを飾るのも◎。光が陰りやすい場(chǎng)所には赤やピンク、黃色などの明るい花を差し色的に飾ることで、光と空間を生かしたバランスが取れます。さらに高低差をつけると目線が変わり、生けた花の印象が変わります。高い天井高では背丈の高い花を飾ると広がりが強(qiáng)調(diào)され、視線を誘導(dǎo)できるので部屋の印象まで変わります。

田中さんがその場(chǎng)で生けてくれた葉。背の高さにより自然と目線が上がり、空間の広がりを感じることができる。

目線や方向を少しずらしてみる

「論語(yǔ)の教えで「中庸」という考え方があります。極端ではない、偏っていないという意味です。僕はこれを、我を押し付けることなく、あらゆるものを広く受けとめる軸と幅を持つことだとも解釈しています。これは花にも通じるものがあると思います。例えば、何か一輪の花があったときに、見ている人に向かってまっすぐ花を向けるという直接的な表現(xiàn)もあると思います。しかし中庸というのを花で表現(xiàn)する場(chǎng)合、花や葉の顔を少し橫や斜めにずらす、という方法もある。こういったことを意識(shí)するだけでも、日本の住宅や空間に合うような表現(xiàn)ができると思っています」

「中庸」という考え方を表すために、田中さんが生けてくれた花瓶と一葉。葉の顔を少し橫にずらしている。

「ひと手間」で花を長(zhǎng)持ちさせる

水をためたバケツの中で莖を斜めにカットし、しっかり水揚(yáng)げしてから生けると花が長(zhǎng)持ちします。莖の細(xì)い花だとハサミを使うと水を吸い上げる導(dǎo)管をつぶしてしまうことがあるので、スパッと切れるカッターがおすすめ。カッターなら刃もこまめに交換でき、バクテリアの汚染も防げます。

花の寫真や絵を取り入れる

生花を飾ることが難しいときには花の寫真や絵を飾ってもいいと思います。季節(jié)ごとに用意しておき、衣替えのように掛け替えるだけでも住まいの空気感を変えられます。

まとめ

花がある空間は暮らしに潤(rùn)いを與えてくれます。家族の間で、花をきっかけに會(huì)話が生まれることもあるでしょう。現(xiàn)代はネットやSNSの普及で、受動(dòng)的にさまざまな情報(bào)が入ってくる時(shí)代ですが、花を買い、それに合う花瓶を選び、飾る場(chǎng)所を決めるという一連の行動(dòng)は、主體的に余裕を生み出す行為になるのでしょう。