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特集:改めて考える。多様性、なぜ大事なの?
2025.3.31
近年、多くの企業や組織が積極的に「ダイバーシティ(多様性)」を推進するようになりました。しかし「なぜ企業や組織はダイバーシティを推進しなければならないのか」と問われたら、一瞬答えに詰まってしまうのではないでしょうか。
「日本企業はとにかく『なぜ必要なのか』の『なぜ』に対する腹落ちが弱いんです。『世の流れだから』『そういう時代だから』『他社もやっているから』といった漠然とした理由でやってもうまくいかない。明確な理由を持ち、腹落ちした狀態で取り組むことが大切です」と話すのは、早稲田大學大學院経営管理研究科 早稲田大學ビジネススクール教授の入山章栄さんです。
これまで多様性推進の筆頭でもあったアメリカでは、多様性を後退させる動きも見られています。多様性が岐路に立たされる中、企業や組織が「なぜ」ダイバーシティを推進しなければならないのか、改めて伺います。
「ダイバーシティ(多様性)」とは、ある集団の中に人種や性別、宗教、価値観など、異なる特徴?特性を持つ人がともに存在すること。入山さんによれば、企業?組織においてダイバーシティが必要な理由はシンプルかつ明快で「長期的に業績を上げるため」だと言います。
「ダイバーシティに取り組むとなぜ業績が上がるのかというと、イノベーションは『離れた知と知の組み合わせ』だからです。離れた知と知を組み合わせるためには、同じ組織に多様な人がいる必要がある。つまり多様性は、イノベーションの源泉中の源泉なんです。CSRの位置づけとして多様性を掲げている企業が多いですが、それだと多様性は業績を阻害するように見られますよね。そうではなくて、將來の企業の成長のために多様性の施策を考えるほうがいいでしょう」。
ところが多くの人は、多様性が業績にとってマイナスになると思い込んでいます。自分たちと考え方の違う人が組織に入ってくると混亂を招くだけだという認識が根強くあるのです。これは高度経済成長期、日本企業がイノベーション自體を必要としていなかったことにも関係があります。
「當時の日本企業は、海外で生まれたものを安く、小さくし、歩留まりを安定して上げるという仕事のやり方をしてきました。歩留まりを安定して上げるには、例えば工場なら、同じ人が同じ時間に來て、同じ作業をしてくれたほうがミスがないし、楽ですよね。ほかにも、立ち上げたばかりのスタートアップで、とにかく営業をかけて売上を伸ばしていかなければいけない場合も同様です。仕事內容や事業のフェーズによっては、同質性が高い組織のほうが短期的には業績が上がるケースもあるんですね。でも、世界に圧倒的な変化があった今、ほとんどの企業?組織はイノベーションが必要な狀態です」。
女性役員比率の引き上げなど、政府としても一見多様性を推進しているようにも見えますが、性別や國籍など、屬性だけのダイバーシティ(デモグラフィー型ダイバーシティ)はあくまで表面上のことで、本質的に大事なのは経験や能力、知識などの內面の多様性(タスク型ダイバーシティ)のほうです。
「とはいえ日本企業には、そもそも日本人の中年男性が圧倒的に多いため、そこから離れた知を持っている人を集めてタスク型の多様性を高めようと思うと、必然的に女性や外國人など、さまざまな屬性の人が増えることになります。すなわち、屬性による多様性は、あくまでもタスク型ダイバーシティを推進した結果であるべきなのです」。
デモグラフィー型ダイバーシティでもタスク型ダイバーシティでも、表面上は同じように多様性が高まっているように見えます。しかし、実はデモグラフィー型ダイバーシティだけに著目すると、屬性による斷絶が起きてしまうこともあるのだそうです。
「例えば、デモグラフィー型で若い女性を何人か組織に入れただけでは、男性のグループと女性のグループというように、互いに脳內で無意識に分けてしまうようになるのです。これを『フォルトライン(組織の斷層)理論』といいます。そうすると、男性は男性の中だけで情報を回すようになるし、女性は女性だけで固まってしまう。これでは離れた知と知の組み合わせは生まれません。『アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)』をなくしていくことが必要です」。
アンコンシャスバイアスは、どうすればなくすことができるのでしょうか。
「一つは斷層を取り除くための研修を徹底してやること。もう一つは、多様性の軸を増やすことです。日本人の男性ばかりの組織に日本人の女性ばかりが入ったら、両者を分かつ軸は性別しかありませんよね。そうすると、軸がわかりやすいので、認知的に男性と女性とに分けてしまうんです。でも仮にその組織にアメリカ人の70代の女性とコンゴ人の20代のトランスジェンダーとトルコ人の45歳の性別不詳の人とウズベキスタン人の55歳の男性が入ってきたら、もう性別とか國籍とか年齢とか、どうでもよくなりませんか。そうなると屬性ではなく、誰々さんという"個"で人を見るようになる。それこそが本當の多様性です」。
このように、わかりやすい屬性の軸がなくなるまで徹底的に多様性を高めていくことが、イノベーションにつながる真の多様性を実現するのです。
「その時のポイントは、違和感を楽しむこと。自分と違う意見をおかしいとか変だと思うのではなく『面白い』と思える感覚を持つことです。その上でリーダーは、誰でも言いたいことが言えるように會議の心理的安全性を高めたり、多様な人たちの動きに対応できる場をつくっていってください。これからのリーダーに必要なのは、ファシリテーション力と聞く力。ダイバーシティだけではダメで、その先のインクルージョン(包摂性)が重要なんです」。
また、多様性を高めるには、個人の內面の多様性「イントラパーソナルダイバーシティ」も有効なのだそう。
「一人の人間がさまざまな経験をしていたら、その人の中に離れた知と知の組み合わせが生まれます。副業や転職で違う職種を経験してもいいし、習いごとや勉強をしてもいい。趣味を追求したり、東京暮らしが長ければ、そこから離れたところで生活してみるのもいいでしょう。早稲田大學のビジネススクールで『チャーハン部』を立ち上げて活動しているのですが、チャーハンという軸で多様な人が集まります。こうした気軽なところからでもいい。個人內多様性はいろいろな形で広げられると思います」。
企業が業績を上げていくにはイノベーションが必要で、そのためには多様性を高めることが必須となる——。しかし私たちは、変化を避け、同質性の高い組織の居心地の良さや目先の業績にとらわれてしまいがちです。多様性の必要性について「腹落ち」するにはどうしたらいいのでしょうか。
「まず多様性は、そもそも効果が出るのに時間がかかるものです。ダイバーシティの推進でよくいわれるのは『効果を數値化して見せたい』ということ。それは難しいんです。なぜなら、多様な人が混ざり合って、気づいたら新しいイノベーティブなものが生まれていて、20年後に振り返って『あの時の組み合わせがきっかけだった』とわかる、という話だから。じゃあどうやって腹落ちしてもらうかというと、これはもう説き伏せるしかないんです。説き伏せて、何十年もコツコツ石垣を積むように組織をつくっていかなければなりません」。
「日本企業の最大の課題は、戦略的な人事のトップがいないこと」だと入山さんは続けます。
「僕がよく言うのは、終身雇用制度は社員を甘やかす仕組みではなく、會社を甘やかす仕組みだということです。これまでは、適當な人事施策をやっていても終身雇用で誰も辭めないから、人や組織を戦略的に育ててこなかった。でもこれからは、30?40年先の未來を見據え、多様な人や組織をつくり込む必要があります」。
地道な組織づくりの先に待っているのは、多様な人々が集まり、離れた知と知の組み合わせからイノベーションが次々生まれる、クリエイティブな世界でしょう。ただし、それは長い時間がかかるし、道のりは決して楽ではありません。
「多様性が高い組織は、會議が揉めるんですね。今アメリカで揺り戻しが起きている理由は簡単で、揉めているからです。多様性を高めると揉めるから嫌だ、DE&Iはおかしいという流れになっているわけですね。トランプ政権がやっている同質性を高める政策は、高度経済成長期の日本企業がそうであったように、少なくとも短期的には成果が出る可能性があります。だからトランプ政権支持者にとっては、同質性を高めることは良い政策になるわけです。でも、こういうことってすぐにはわからない影響もある。數十年後に違う政権になった時、これはあの時の影響だとわかることがあるはずです」。
世界中で所得の格差が拡大し、分斷が起きているため、當面はかなり大変な時期が続くだろうと入山さんは予測します。しかしそれでも諦めずに多様性を高め続けていくことが、數十年後の未來をつくり上げます。
「揉めることを恐れた瞬間に、多様性は意味がなくなります。もちろん不健全な揉め方は良くないですが、健全な議論は大切です。多様な意見がぶつかり合うことからイノベーションが生まれる。そのことを忘れないでほしいと思います」。
慶應義塾大學卒業、同大學院経済學研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大學経営大學院よりPh.D.(博士號)取得。同年より米ニューヨーク州立大學バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大學大學院 早稲田大學ビジネススクール準教授。 2019年より教授。専門は経営學。國際的な主要経営學術誌に論文を多數発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。
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