「海の溫暖化」が引き起こす異常気象、生態(tài)系の変化。今、海で何が起こっているのか

海水溫が上がることで、異常気象が増える

2024年の夏、とても暑かったのを覚えている方も多いのではないでしょうか。実際、2024年は観測(cè)史上一番暑い年と発表されました※1。その裏では、海の中でさらに大きな変化が起こっていました。なんと、海中の溫度が約5℃も上昇したのです※2。海中の溫度が1℃上がると気溫が10℃上がるのに匹敵する影響があるといわれることもあり、その深刻さを思うと、驚かずにはいられません。

• ※1：EUの気候監(jiān)視ネットワーク「コペルニクス気候変動(dòng)サービス（C3S）」が発表。
• ※2：參照：2024年8月に環(huán)境省が公開(kāi)した、「モニタリングサイト1000」に含まれる日本各地のサンゴの生息海域の調(diào)査速報(bào)。

太平洋の東側(cè)、南米?ペルー沖の海水溫が上がり、逆にフィリピンやインドネシア、パプア?ニューギニアなどの太平洋の西側(cè)の水溫が下がる現(xiàn)象を「エルニーニョ現(xiàn)象」といいます。東側(cè)と西側(cè)の水溫差が極端になることで発生し、大型臺(tái)風(fēng)や集中豪雨などの異常気象が起きやすくなります。実際、三陸沖の海水溫は例年に比べて高く、海水のヒートマップを見(jiàn)ると、周辺エリアは真っ赤になっていました。

NOAA Satellite and Information Service「Daily Global 5km Satellite Sea Surface Temperature Anomaly」のデータ。2024年12月14日現(xiàn)在でも、三陸沖の水溫の高さがわかります。

この地域は、世界でもトップレベルの海水溫上昇率を記録していたのです。頻繁に海に入っている方々からは、「まるで溫水プールのようだ」という聲も聞かれるほどです。

猛暑により海水溫が上がったことに加えて、三陸沖の異常な海水溫上昇の裏側(cè)には他にも原因があります。その一つが黒潮の北上です。

黒潮と親潮が、ぶつからなくなった？

通常、黒潮は四國(guó)から和歌山、東京灣沖へと日本列島沿いに北上します。しかし、偏西風(fēng)や貿(mào)易風(fēng)の影響によって、黒潮が大蛇行すると、和歌山?潮岬付近で南に進(jìn)路を変え、日本列島から250～300kmほど迂回して流れるようになります。この大きな変化が、三陸沖の環(huán)境にも影響を與えています。従來(lái)、三陸沖では黒潮（暖流）と親潮（寒流）がぶつかることで豊富なプランクトンが生息し、多くの魚(yú)類(lèi)が集まる好漁場(chǎng)となっていました。

ノルウェー沖、カナダ?ニューファンドランド島沖のグランドバングに並んで、三陸沖が世界三大漁場(chǎng)の一つとされるのも、この獨(dú)特な環(huán)境が理由でした。しかし、黒潮の北上により、暖かい海流が三陸沿岸に入り込み、寒流である親潮は北に押しやられて入ってこなくなる。親潮と黒潮が三陸沖でぶつからなくなる年も出てきたのです。

こうした潮の変化はさまざまなところに影響を與えていて、例えば「サンマの不漁」の原因にもなっています。サンマは冷たい親潮を好むため、親潮に乗って南下するのが一般的でしたが、今ではそれが難しくなってしまいました。他には海の砂漠化、ともいわれる「磯焼け」を招いています。一般的にはウニは水溫が下がると活動(dòng)を停止しますが、水溫が溫かいと活動(dòng)し続けるため、海藻が成長(zhǎng)しないといけない冬の時(shí)期に海藻を食べ盡くしてしまいます。

さらに深刻だったのは養(yǎng)殖業(yè)への影響です。ホヤや牡蠣は全滅に近い狀態(tài)になったといわれていて、漁師の方に話(huà)を聞くと、「ゴミ（死んでしまった牡蠣）の山から、生きた牡蠣を探さなければならなかった」というほど悲痛な聲が上がっていました。

2023年も多くの牡蠣が死滅し、2024年には生き殘った牡蠣も死んでしまったと言います。

フィッシャーマン?ジャパン研究所を立ち上げる

こうした海中の変化はアカデミックな分野で研究されてきましたが、漁師たちの間ではあまり取り沙汰されてきませんでした。「數(shù)年たてばまた元に戻る」と楽観視する聲も多く聞こえました。ですが、この1、2年でその聲が如実に変わってきたんです。「これは本當(dāng)に大変なことになっているのかもしれない…」と聲に危機(jī)感がにじむようになりました。

一方で、海の研究をしたい大學(xué)や研究者たちからすると、毎日海に出ている漁師たちは情報(bào)の寶庫(kù)です。彼らの生の聲を聞きたいし知恵も借りたい。そこで、これまで距離のあった両者をつなげるべく「フィッシャーマン?ジャパン研究所（以下、FJ研究所）」を立ち上げました。

また、FJ研究所で実現(xiàn)したいことの一つに「シティズン?サイエンス」＝「市民の科學(xué)」があります。これは海外では確立している活動(dòng)なのですが、 國(guó)や研究者に任せきりにするのではなく、市民自らが社會(huì)生活の中で疑問(wèn)に思ったことを調(diào)べた上で、その結(jié)果を研究者と共有しながら問(wèn)題解決に役立てるという取り組みです。

シティズン?サイエンスを知ったのはデンマークを視察した時(shí)のことです。牡蠣が育たないといわれているデンマークのロラン島で、市民を中心に、地元の漁師や研究者と一體となって牡蠣養(yǎng)殖に挑戦しています。牡蠣の養(yǎng)殖を通して、みんなで水溫や栄養(yǎng)源などについて學(xué)び合い、海のことを知ろうとする姿はとても印象的でした。

また、FJ研究所では、漁師たちの経験や勘をデータ化し、それを研究機(jī)関にフィードバックする活動(dòng)にも力を入れています。さらに、東北大學(xué)の近藤倫生教授と協(xié)力し、「海の環(huán)境DNA」の研究を推進(jìn)しています。環(huán)境DNAとは水中や土壌中など環(huán)境中に存在する生物由來(lái)のDNAのことで、これを調(diào)べることで、どの魚(yú)がどれだけの數(shù)生息しているのか、今後どのように増減するのかといった資源管理が可能になるかもしれません。

「適応力」を取り戻すために

海中の変化は深刻ですが、ただ嘆いていても好転はしません。しばしば環(huán)境問(wèn)題に対しては「緩和と適応」が大切といわれます。もちろん「緩和」を考えることは大切ですが、漁師一人の力には限界があります。FJ研究所では「適応」の方法も探りたいと考えています。

例えば養(yǎng)殖業(yè)の生産でいうと、海水溫の上昇に合わせた種苗や稚魚(yú)の導(dǎo)入、新しい育て方の研究によって、死なない貝や魚(yú)ができるかもしれません。生産と同時(shí)に加工や流通も変革が必要で、今まで獲れなかった魚(yú)をどう売っていくかを考えないと、獲れなくなってしまった魚(yú)の売上を補(bǔ)塡することはできません。

日本で有名な例が、函館です。「函館といえばイカ」といわれるくらいの名産品でしたが、近年、イカの記録的な不漁が続き、西の魚(yú)であるブリが大量に取れるようになっています。なんと2020、2021年には北海道のブリの漁獲高は全國(guó)で一位となりました。そこでイカの代わりにブリを全面的に打ち出して、「函館ブリフェス」を開(kāi)催したところ、大きな人気を博しています。これくらいの柔軟さがあってもいいと思うんです。

実際、三陸沖でも新しい魚(yú)種が見(jiàn)られるようになっています。「冬の魚(yú)」の代名詞的な存在であったタラが姿を消しつつある一方で、「西の魚(yú)」といわれていたタチウオやサワラが水揚(yáng)げされるようになりました。他にも石巻でも伊勢(shì)海老が揚(yáng)がるようになっているのも特徴的です。さらにはハワイでは"マヒマヒ"として有名なシイラが石巻でも姿を見(jiàn)せるようになりました。

近代の日本では、地域ごとの特産の魚(yú)種を加工することを前提に、水産加工場(chǎng)を整えてきました。それ故、魚(yú)種の変化に対応できなくなっていました。FJ研究所では、人の力ではどうしようもないことや昔には戻らないという前提で話(huà)し合い、研究し、産業(yè)に落とし込むことで、適応力の高い人材の育成にもなると思っています。

海の未來(lái)を想像しながら、私たち一人ひとりができることを考えていきたいものですね。