「退職金と住宅ローン」これから、どう向き合う？

「60歳になったら赤いちゃんちゃんこで還暦を祝い、仕事から一線(xiàn)を退き、セカンドライフを謳歌(おうか)する」というストーリーは令和の時(shí)代においては、昔話(huà)になりつつあるでしょう。

2023年4月より公務(wù)員の定年が段階的に65歳まで引き上げられることが決定したことや、2025年から施行される「高齢者等の雇用の安定等に関する法律」により、65歳までの雇用確保がすべての企業(yè)に義務(wù)化されることからも60歳定年が変わりつつあることが分かります。そんな中定年を迎える上で心待ちにしていることといえば、やはり退職金でしょう。

厚生労働省の令和5年「就労條件総合調(diào)査」によると退職金制度を設(shè)けている企業(yè)割合は74.9%と高い水準(zhǔn)にも感じられる一方で、昨今は退職金制度が設(shè)けられていない企業(yè)も増え、退職金への考え方や捉え方も変化しています。そこで今回は退職金と住宅ローンの関係性、特に退職金と繰り上げ返済について迫っていきます。

退職金とは

「退職金」とひとえに言っても、人によって受け取る額は幅があるでしょう。そもそも退職金は、各企業(yè)によって自由に決められることが大きな特徴です。また、退職金と似ている企業(yè)年金という制度もあります。まず代表的なものをそれぞれ2種類(lèi)ずつご紹介します。

退職金の1つ目は、退職一時(shí)金制度です。退職する際に支給されるものであり、支給額については企業(yè)の制度によって左右されます。ポイント制やテーブル制を?qū)毪筏皮い肫髽I(yè)、成果報(bào)酬を基に算出する企業(yè)などさまざまです。定年退職以外にも、転職などによる自己都合退職の際も支払われるものになります。

退職金の2つ目は、退職金共済制度です。退職金を企業(yè)側(cè)で用意するのが難しい等の理由で退職金制度が導(dǎo)入されてない中小企業(yè)向けの「中小企業(yè)退職金共済制度」は國(guó)の施策によって運(yùn)営されています。それ以外にも、商工會(huì)や商工會(huì)議所が運(yùn)営している「特定退職金共済制度」なども退職金共済制度の一つです。

続いて企業(yè)年金です。1つ目は、確定給付企業(yè)年金制度（DB）です。退職する際に、一時(shí)金または年金として受給できる仕組みで、従業(yè)員が受け取る給付額があらかじめ決まっている制度です。従業(yè)員は退職時(shí)に一時(shí)金あるいは年金としての受給のどちらかを選択できます。企業(yè)が金融機(jī)関に年金資産の管理運(yùn)用を依頼しているのが特徴です。

企業(yè)年金の2つ目は、企業(yè)型確定拠出年金制度（DC）です。確定給付企業(yè)年金制度（DB）と異なり、企業(yè)が掛け金を拠出し、従業(yè)員自身が管理?運(yùn)用する制度であるため、給付額は自身の運(yùn)用によって増額が見(jiàn)込めます。しかしながら元本割れのリスクがあることも念頭に置いておかなければなりません。

では、企業(yè)年金と退職金にはどんな違いがあるのでしょうか。明確な違いは受給できるタイミングです。退職金は退職一時(shí)金のように、企業(yè)を退職する際に一括で受給するオーソドックスなもので、企業(yè)年金は従業(yè)員が受け取るタイミングを選べるのが大きな特徴です。また、稅制面でも違いがあります。退職一時(shí)金の場(chǎng)合、退職所得控除という非課稅枠があり、この枠內(nèi)に収まる金額であれば稅金はかかりません。枠を超えた場(chǎng)合でも、超えた分の2分の1が課稅対象となるため、稅金面で優(yōu)遇されていると言えます。一時(shí)金で受け取る場(chǎng)合は、社會(huì)保険料の負(fù)擔(dān)もありません。一方、退職金を年金として分割で受け取ると、資金を運(yùn)用できるメリットはありますが、年金は雑所得として課稅されるため非課稅枠がありません。

さらに、國(guó)民健康保険に加入している場(chǎng)合は、社會(huì)保険料の負(fù)擔(dān)が増えることがあります。なお、企業(yè)によって退職一時(shí)金と退職年金を併用できる場(chǎng)合もあります。退職金制度を?qū)毪筏皮い肫髽I(yè)、企業(yè)年金を?qū)毪筏皮い肫髽I(yè)、どちらも企業(yè)によってさまざまですので、自身の所屬する企業(yè)がどんな制度を設(shè)けているのか早いうちから確認(rèn)することをお?jiǎng)幛幛筏蓼埂?/p>

退職金の相場(chǎng)

では令和のいま退職金は、いくらもらえるのでしょうか。下記の表1をご覧ください。下記の表1は、厚生労働省の令和5年就労條件総合調(diào)査による、退職給付（一時(shí)金?年金）の支給実態(tài)になります。定年退職者の退職金支給額が1番大きく、大學(xué)卒であるか高校卒であるかはもちろん、勤続年數(shù)によっても支給額は変わってきます。令和5年の調(diào)査では、大學(xué)?大學(xué)院卒（管理?事務(wù)?技術(shù)職）の定年退職による退職金給付額の平均額は1,896萬(wàn)円、高校卒（管理?事務(wù)?技術(shù)職）だと1,682萬(wàn)円、高校卒（現(xiàn)業(yè)職）だと1,183萬(wàn)円となっています。では、年々退職金が増えているかどうかを確認(rèn)するために、令和5年度と平成30年度との平均退職金給付額を見(jiàn)てみましょう。

令和5年の平均退職金給付額は平成30年と比較すると、大學(xué)?大學(xué)院卒（管理?事務(wù)?技術(shù)職）の定年退職による退職給付額は87萬(wàn)円の減少、高校卒（管理?事務(wù)?技術(shù)職）の場(chǎng)合は64萬(wàn)円の増加、高校卒（現(xiàn)業(yè)職）の場(chǎng)合は24萬(wàn)円の増加となっています。高校卒の場(chǎng)合は増えていますが、大學(xué)?大學(xué)院卒は減少傾向にあるといえます。

表1：令和5年と平成30年の退職事由別
「退職者１人平均退職給付額（勤続20年以上かつ45歳以上の退職者）」の比較

次に表2で退職給付制度の形態(tài)別で退職金額を確認(rèn)すると、大學(xué)?大學(xué)院卒（管理?事務(wù)?技術(shù)職）の場(chǎng)合、退職一時(shí)金制度のみの企業(yè)は1,623萬(wàn)円、退職年金制度のみだと1,801萬(wàn)円、両制度併用の企業(yè)は2,261萬(wàn)円となっています。高校卒（管理?事務(wù)?技術(shù)職）の場(chǎng)合、退職一時(shí)金制度のみの企業(yè)は1,378萬(wàn)円、退職年金制度のみだと1,613萬(wàn)円、両制度併用の企業(yè)は2,145萬(wàn)円となり、高校卒（現(xiàn)業(yè)職）の場(chǎng)合、退職一時(shí)金制度のみの企業(yè)は956萬(wàn)円、退職年金制度のみだと1,451萬(wàn)円、両制度併用の企業(yè)は1,469萬(wàn)円となっています。退職一時(shí)金制度よりも退職年金制度や両制度を併用している企業(yè)の方は給付額が大きくなる傾向にあります。平成30年と比較すると、いずれの場(chǎng)合も減少傾向であることが見(jiàn)て取れます。このように比較して見(jiàn)てみると、一昔前ほど退職金に過(guò)度な期待ができないといえるでしょう。

表2：令和5年と平成30年の形態(tài)別「退職給付（一時(shí)金?年金）制度の
形態(tài)別定年退職者1人平均退職給付額（勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者）」の比較

退職金で住宅ローンを一括返済する？しない？

ではここからは、退職金の使い方について考えてみましょう。退職金は減額傾向にあるとはいえ、まとまったお金が手元に入ると使い道はよく考えたいものです。そこで退職金の使い道の一つとして、殘りの住宅ローンに退職金を充てるという考え方があります。下記のグラフ3「住宅ローンの返済に関して負(fù)擔(dān)感の変化」によると、近年の物価上昇や想定外の支出により約2割は住宅ローン返済の負(fù)擔(dān)が大きくなったと感じています。また、グラフ2「住宅ローンの返済に関して不安に思っていること」は、約9割が住宅ローンの返済に何らかの不安を感じていることが分かります。

グラフ1：「住宅ローンの返済に関して負(fù)擔(dān)感の変化」

グラフ2：「住宅ローンの返済に関して不安に思っていること」

仮に30代半ば?40代前半で住宅ローンを組んで住宅を購(gòu)入した場(chǎng)合、退職金を受給する60?65歳頃はまだ住宅ローン返済中であるケースが多いでしょう。少しでも早く住宅ローンを完済したいと考えるのは自然なことです。それでは退職金で住宅ローンを一括返済した場(chǎng)合のメリット?デメリットを見(jiàn)てみましょう。

退職金一括返済のメリット?デメリット

メリット

1. 住宅ローンの返済期間が短くなる

一括返済をした場(chǎng)合の最大のメリットは、住宅ローンの返済期間が短くなることです。人生の半ばから後半まで20年?35年と返済期間は人それぞれではありますが、長(zhǎng)期にわたって返済し続けるのは、人生の後半パートにて家計(jì)が苦しくなる可能性があります。その返済期間を退職金といった、まとまったお金が充てられるのは精神的な余裕につながるでしょう。

2. 利息の軽減につながる

住宅ローンに利息が発生しているため、支払期間が長(zhǎng)くなれば長(zhǎng)くなるほど、利息がその分長(zhǎng)く発生してしまい、返済額も増えてしまいます。一括返済をすれば利息分の増額の心配もなくなります。

デメリット

1. 老後の資金不足に悩む

デメリットとして大きいのは、老後に資金不足になる恐れがある點(diǎn)でしょう。醫(yī)療の進(jìn)歩も著しい現(xiàn)代では、人生100年時(shí)代といわれています。100年の人生では、山あり谷ありの連続ともいえるでしょう。住宅ローンの一括返済によって、もしもの時(shí)のお金が少なくなってしまう恐れがあります。

2. 団體信用生命保険の適用がなくなる

住宅ローンを組む際に、加入した団體信用生命保険、いわゆる住宅ローンを組んだ方に萬(wàn)が一のことがあったときに殘債がなくなる保険をいい、これが完済することで失効することになります。仮に手厚い保障付きの団體信用生命保険に加入していた場(chǎng)合、団體信用生命保険が消失してしまい、大病を患った際などに保障が不足してしまうリスクがあります。

では、退職金で一括返済するとしないでは、どのようなシミュレーションになるのか見(jiàn)てみましょう。

條件

35歳で年利1%、35年返済で6,000萬(wàn)円の住宅ローンを組んだ場(chǎng)合、60歳の時(shí)點(diǎn)で（借り入れから25年経過(guò)時(shí)點(diǎn)）での殘債は、約1,933萬(wàn)円になります。その金額を一括返済した場(chǎng)合と一括返済をしなかった場(chǎng)合の総返済額の差は、97.4萬(wàn)円となります。一括返済後は毎月の返済額約16.9萬(wàn)円を返済しなくて済むことに安心感を抱く方もいるでしょう。一方、約1,933萬(wàn)円を返済しても総返済額の差は97.4萬(wàn)円にしかならないと考える方もいるでしょう。

では、一括返済ではなく、一部繰り上げ返済を?qū)g施するとどのような差が生じるのでしょうか。繰り上げ返済をするということは、それまでにお金がたまっていなければなりません。よくある繰り上げ返済をするタイミングとして、住宅ローン控除の適用期間が終わった後があります。今回は例として、住宅ローン控除の適用期間の13年間が終わった後に繰り上げ返済をする場(chǎng)合と退職時(shí)に一部繰り上げ返済をする場(chǎng)合で比較してみます。なお、繰り上げ返済金額は、子育て世帯?若者夫婦世帯が2024（令和6）年に入居し、長(zhǎng)期優(yōu)良住宅?低炭素住宅の場(chǎng)合に控除できる住宅ローンの最大控除額である455萬(wàn)円とします。

なお、繰り上げ返済には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つの方法があります。

「期間短縮型」とは

毎月の返済額はそのままで、返済期間を短縮するのが期間短縮型となります。返済期間が短くなることで利息も減り、総返済額が減るのがメリットとなります。

「返済額軽減型」とは

返済期間は変わらず、毎月の返済額を軽減するのが返済額軽減型となります。返済額を軽減させることで、將來(lái)の支出や貯蓄に備えることができるのがメリットとなります。
では実際にシミュレーションしてみましょう。

期間短縮型の場(chǎng)合の表を見(jiàn)ると、60歳時(shí)に繰り上げ返済をするよりも、住宅ローン控除期間が終了後に繰り上げ返済をした方が、利息軽減効果が大きいことが分かりますが、総返済期間は4カ月しか変わりません。返済額軽減型の場(chǎng)合は、利息を多く返済している60歳時(shí)に繰り上げ返済をする方が、月額返済額を多く減らせることが分かります。毎月の返済や、今後の支出に不安があるなら返済額軽減型ですが、毎月の返済額は変えずにローンの期間そのものを短くすることで、利息の支払期間も短縮され、結(jié)果として総返済額を抑えることができる期間短縮型は、繰り上げ返済の利息軽減効果が最大限に引き出されるため、総返済額を軽減したい場(chǎng)合は、期間短縮型の方を選択する方がよいでしょう。

まとめ

退職金を住宅ローンの一括返済に使うかどうかは、老後の生活費(fèi)や健康リスクも踏まえた慎重な判斷が求められます。一括返済のメリットとしては、利息負(fù)擔(dān)が減って総返済額が小さくなることや、毎月の返済がなくなり家計(jì)に余裕が生まれる點(diǎn)が挙げられます。しかし、老後の資金不足や醫(yī)療?介護(hù)費(fèi)用などの予期せぬ出費(fèi)のリスクも考える必要があります。そのため、退職金で全額返済するのではなく、一部繰り上げ返済や返済額を軽減する方法も一つです。また、これから住宅購(gòu)入を検討している場(chǎng)合で、退職金が明確でないとか少ないと予想される場(chǎng)合には、老後に負(fù)擔(dān)が少ない「殘価設(shè)定型」の住宅ローンも選択肢の一つです。早い段階でおおよその退職金額を把握し、キャッシュフローを見(jiàn)直しながら最適な方法を検討することが大切です。