ソファや椅子に座るライフスタイルが一般化したことにより、
「和室を作るか、作らないか」は
住まいづくりにおいて迷うポイントではないでしょうか。
最近は「和室は必要だから作る」というよりも、
日本の住まいのアイデンティティとして和室や畳、
障子といった和の意匠を取り入れるケースが増えています。
大和ハウス工業(yè)のトップデザイナー集団、ZIZAIのデザイナー、
篠﨑幸久が和の意匠を取り入れた事例をご紹介します。
Profile
大和ハウス工業(yè)株式會(huì)社 ZIZAI DESIGN OFFICE
篠﨑 幸久
一級(jí)建築士
お客さまの想いはもちろん、周りの環(huán)境にも真摯に向き合い熟考を重ねて設(shè)計(jì)することを心掛けている。これまで設(shè)計(jì)した住まいは、木造?鉄骨造?RC造を含め1,000棟以上。
日本の住宅の変遷から見る和室の原型とは？
畳や障子をあしらった和風(fēng)旅館や神社仏閣を訪れると、ホッとしたり、どこか懐かしい気持ちになったりするものです。家づくりにおいても「畳でゴロンとしたい」「くつろげる空間が欲しい」と和室を希望される方は多くいらっしゃいますが、スペース的な制約があると優(yōu)先度が低い和室は除外されてしまうことが多いようです。
今回は、和室を設(shè)けた住まいの魅力をご紹介するとともに、和の意匠を取り入れた空間づくりのヒントを探っていきたいと思います。
和室の原型はいつ登場(chǎng)した？
和室を考えるにあたり、日本の住宅の変遷を振り返ってみましょう。日本の住宅の特徴は「床座」と呼ばれる様式です。現(xiàn)在の住居の原型となるのは平安時(shí)代に登場(chǎng)した寢殿造ですが、當(dāng)時(shí)は壁がなく、屏風(fēng)やすだれで空間を仕切っていました。その後、部屋を仕切るようになり畳?襖?障子が出現(xiàn)しました。
室町時(shí)代から江戸時(shí)代にかけては、武士たちが身分や格式を示す書院造が普及し、床の間や違い棚、付書院（つけしょいん）といった現(xiàn)代の和室の意匠が生まれました。
大きな変化は明治時(shí)代以降の洋風(fēng)住宅の導(dǎo)入です。椅子座が普及し、プライバシー確保の必要性などから食事と寢る部屋が分かれるようになりました。近年では和室のない住まいも増えています。
設(shè)計(jì)士の間では和風(fēng)建築といえば、吉田五十八（いそや）氏の名前が挙げられます。現(xiàn)在の和室の基本となる近代數(shù)寄屋造りを確立させた人物で、代表作の一つである豬俁邸（現(xiàn)豬俁庭園）は晩年に設(shè)計(jì)した集大成ともいえる作品です。
ガラス戸や障子がすべて引き込まれた豬俁邸のリビング。カーペット敷きだが、障子や壁面は和の要素でまとめられている（豬俁邸）。
吉田五十八氏の特徴の一つは無駄な線を極力排したことです。建具をすべて引き込んで存在感を消したり、空調(diào)設(shè)備も和風(fēng)デザインの中にさりげなく融合させたりと、空間をシンプルに見せるためのこだわりを隨所に見ることができます。數(shù)寄屋に洋室を組み込んだ近代數(shù)寄屋造りは現(xiàn)代の住まいにおいて參考になる部分も多く、これから家を建てる方はぜひ一度訪れていただきたい場(chǎng)所です。
非日常を味わえる和風(fēng)の建築事例をご紹介
ここからは、私が設(shè)計(jì)した邸宅をご紹介します。東京にお住まいの施主さまが金沢に建てられた別邸で「非日常を味わえる和風(fēng)の別邸」をテーマに、施主さまのご趣味である古民具や唐紙といった和の意匠を隨所に取り入れた和風(fēng)3階建て住宅です。
敷地面積は82坪（271.07m²）、延床面積は135坪（446.28m²）、美術(shù)品を數(shù)多くお持ちで、1階にギャラリーやゲストルーム、2階にLDK、3階に寢室やシアタールームという造りです。
ファサードには格子をあしらい落ち著いた雰囲気に。金沢城にも使われている戸室石をアプローチに敷き、その先には施主さまが古民蕓店で購入された江戸時(shí)代の総欅（けやき）の蔵戸を取り入れました。
蔵戸を開けると中庭が広がります。玄関は建物のたたずまいに合わせた和風(fēng)の引き戸ですが、アルミ製で快適性も擔(dān)保しています。
玄関を入ると広々とした土間空間が広がります。土間は砂利が浮き出た「洗い出し仕上げ」で、寫真手前側(cè)がギャラリーと來客をもてなすバーカウンター、奧が玄関です。バーカウンターの上部収納には照明付きの組子をあしらいました。
和風(fēng)旅館をイメージしてしつらえた玄関には、上がり口に欅（ケヤキ）の一枚板を採用。床の間にも使われるような木材で、これだけでぐっと和に寄ったデザインになります。
1階のギャラリーには薪ストーブを設(shè)置。施主さまが古民蕓店で購入した桐たんすにスチール製の腳を取り付けました。
こちらは1階の客間です。縁あり畳に鴨居、長押（なげし）、床の間に落し掛け、床柱、天井は竿縁天井といった伝統(tǒng)的な和室の造りです。
雪見障子を上げれば坪庭を眺めることができます。最近はこうした伝統(tǒng)的な和室は減っていて、畳は縁なし、畳表もい草ではなく耐久性の高い和紙畳が主流。壁や天井も和紙やクロスを貼ることが多いです。しかし、昔ながらの和室の魅力が見直され、取り入れる方もいらっしゃいます。
和のアイテムを取り入れた和モダン空間
2階のリビングは天井に杉のリブ材を貼り、窓に障子を採用。構(gòu)造上必要な中央の塊には骨董（こっとう）の壺を飾るニッチを設(shè)けました。和と洋を融合させた和モダンな空間には、唐紙の伝統(tǒng)的な文様のオーダーチェアがマッチします。
ゲスト用の寢室は和風(fēng)旅館をイメージして、手前を畳、ベッドの周りをフローリングにしました。フローリングを一段上げて下部に間接照明を配し、ベッドのヘッドボードの裏には杉のリブ材を貼り、サイドに唐紙をあしらいました。和の要素を隨所にちりばめて落ち著いた空間に仕上げています。
2階のトイレには障子や格子、和紙をあしらい、和に寄り過ぎないバランスで仕上げました。陶器製の洗面ボウルは空間のアクセントに。
3階の廊下には施主さまが古民蕓店で購入された欄間をはめこみ、後ろに照明を入れることで繊細(xì)な文様が浮かび上がります。夜は常夜燈としてもお使いいただけます。
木目が美しい廊下にはやわらかな光が差し込む障子を採用。美術(shù)館にポツンと置かれた椅子のイメージで造作のソファを設(shè)置しましたが、ご夫妻がここで読書を楽しむなど思い思いに過ごされているようです。
畳を敷いたスペースは3階の湯上がり床で、左手の襖の向こうが施主さまご夫妻の寢室です。襖の引き手は弊社のインテリアコーディネーターが金沢で見つけた九谷焼のものです。
襖の唐紙は裏表で貼り分け、金沢の伝統(tǒng)色「加賀五彩」をイメージしています。畳を一方向に並べることで、寢室→湯上がり床→バルコニーと奧行き感が生まれています。左の障子は片方に引き込むことができ、窓の外に広がる桜並木を窓一面に楽しむことができます。
施主さまが金沢にいらっしゃる際の別邸として建てたお住まいですが、將來的にはこちらに定住することも検討されているとか。「とても落ち著く」と気に入ってくださり、度々、訪れておられるようです。
和の意匠を取り入れて心地よい空間を生み出す
こちらはリビングにオープン欄間付き障子を取り入れた弊社の展示場(chǎng)です。障子で仕切ればやわらかい光が広がる落ち著いた空間に、開け放てば開放感ある洋の空間にと雰囲気が一変します。獨(dú)立した和室を設(shè)けることができない場(chǎng)合でも、このように和の意匠を取り入れて落ち著いた雰囲気を楽しむことができます。
リビングの一角に床材として畳を取り入れる方法もあります。洗濯物をたたんだりアイロン掛けをしたり、小さなお子さまのお晝寢スペースにしたりと汎用性の高いスペースとして使え、くつろぎの空間としても重寶します。
私は、和の住まいのキーワードは「素材」だと考えています。木、竹、土、石、紙といった、古來より使われてきた和の素材を、極力人工的な手を加えずに素材の良さを活かしてしつらえると、空間に心地よさとくつろぎが生まれます。
當(dāng)然ながら、和の意匠を追求するあまり、斷熱性や耐震性といった基本的な部分をおざなりにしてしまっては本末転倒です。我々ハウスメーカーが手掛ける和の住まいの良さは、デザイン性だけでなく、機(jī)能性の高さやメンテナンスの安心感といった部分が擔(dān)保されていることだと自負(fù)しています。
まとめ
本格的な和室のある住まいや、和の意匠を取り入れた和モダンの住まいまで、和の美意識(shí)を住まいに取り入れる方法はさまざま。「和室は要らない」と考えている方も、和の暮らしの魅力をぜひ展示場(chǎng)で感じてみてください。
